今週の生地 VOL.23は、流れるような曲線が美しい「ウィローボウ」をご紹介いたします。
「ウィローボウ(Willow Boughs)」は、1887年に壁紙として発表された、ウィリアム・モリスの代表作のひとつです。イチゴドロボウに次いで、多くの方に目にしていただく機会のあるデザインかもしれません。
柳の生命力まで感じさせる模様はどのような空間にも取り入れやすく、今日まで世界中で愛され続けています。モリスと娘のメイ・モリスがテムズ川に流れ込む小さな小川のほとりを散歩していた際に、水面を覆う柳の枝の流れるような動きにモリスが強く惹かれたことがきっかけで誕生しました。
ところでモリスは、「ウィローボウ」を発表する13年前の1874年に、前身となる「ウィロー(Willow)」というデザインを発表しているのをご存知でしょうか。比較してみると、その違いがおわかりになると思います。
下の画像、向かって左手が「ウィロー(Willow)」、右手が「ウィローボウ(Willow Boughs)」です。
「ウィローボウ」は「ウィロー」と比べると、葉の密度が高まり、くるんと丸まる葉先の動きや、色の濃淡による奥行きが加わっています。また、木の幹から伸びる大きな枝を意味する"Boughs"が名前に加えられたように、茎や枝と葉の色も描き分けられ、「ウィロー」からぐっと自然主義的な表現を感じます。
芸術家であり、思想家・詩人でもあったウィリアム・モリスは、生涯を通じて自然について学び続け、次のような言葉を残しています。
“I must have unmistakable suggestions of gardens and fields, and strange trees, boughs and tendrils.”
(私は、庭や野原、個性的な木々や枝、つるなど、自然の特徴をはっきりと感じさせる要素を必ず取り入れたいと考えています)
"To give people pleasure in the things they must perforce USE, that is one great office of decoration; to give people pleasure in the things they must perforce MAKE, that is the other use of it."
(人々がどうしても使わなければならないものに喜びを与えること―それが装飾の大きな役割のひとつである。人々がどうしても作らなければならないものに喜びを与えること―それが装飾のもうひとつの役割である)
モリスは装飾(デザイン)の価値を「日常の必然的な行為(使うこと・作ること)に喜びを添える」という視点で捉えており、自然との調和や美を生活に取り入れる彼の思想と深くつながる重要な言葉です。
こうしたモリスの言葉を踏まえて「ウィローボウ」を改めて見ると、単なる自然主義にとどまらず、自然の生動感や様式感を帯びた、奥深いデザインであることに気づかされます。
冒頭で1887年に壁紙のデザインとして発表されたと述べましたが、ファブリックとしての「ウィローボウ」は、8年後の1895年に生産がスタートしました。
ラファエル前派の画家で友人のダンテ・ガブリエル・ロセッティと共同で借り入れた、イングランド南部・コッツウォルズにあるケルムスコットという小さな村にあるモリスの別荘「ケルムスコット・マナー」では、「ウィローボウ」のファブリックが、モリスの妻であるジェーンの寝室にも使用されたそうです。
写真は「ウィローボウ」の生地を使用した寝室のイメージ。
FIQでは、布を織って模様を表現している「ウィローボウ」と、イギリス現地でプリントを行っている「ウィローボウ」の2種類をお取り扱いしております。
同じ模様であっても、表現の違いで見た目の雰囲気が変わるのは、ファブリックの面白さ・魅力の一つですね。
写真左より:ウィローボウ MM5949 (BE)(防炎)【織物】、ウィローボウ MM5950 (G)(防炎)【織物】
ペンダントライトφ60×25(100W×3灯)/ ウイローボウ クリーム

ウィリアム・モリス クッションカバー各種(サイズ:45×45㎝)
写真左より:布を織って模様を表現している「ウィローボウ」、プリントで模様を表現している「ウィローボウ」
ウィリアム・モリスは絵画・彫刻などを「大きな芸術(The Great Arts)」と呼び、家造り、家具木工、ガラスや陶器や染織といった工芸を「小さな芸術(The Lesser Arts)」と呼びました。
規模や価格、社会的地位の違いではなく、「大きな芸術」は主に鑑賞する芸術、「小さな芸術」は触れる芸術として区別し、人々の生活に直接喜びをもたらす重要な芸術と位置づけ、誠の意味での芸術の復興には、後者の再建があってこそと述べています。
「ウィローボウ」を通して見えてくるのは、モリスが『The Lesser Arts』で目指した、生活で使用するモノにも美を宿すという哲学です。単なる装飾ではなく、使う・作ることそのものに喜びを与えるデザイン。ファブリックとして手に取り、空間に取り入れることで、私たちもまたその哲学を日常に取り入れることができます。