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【コラム】サステナブルな生地ってなに??

2021/06/13

【コラム】サステナブルな生地ってなに??

近年耳にすることがやたらと多くなった「サステナブル」「サスティナブル」「サスティーナブル」って、呼び方はいろいろあれど、英語の「sustain(持続する)」と「able(〜できる)」を組み合わせた形容詞「Sustainable」からできた、もともと「持続可能な」「維持できる」という意味の言葉ですね。実はここ数年我々繊維業界も、この言葉に翻弄されています。
 
今更ですがプラスチックごみ問題について。2018年6月に発表されたUNEP(国連環境計画)の報告書『シングルユースプラスチック』によれば、日本のプラスチックごみの廃棄量を人口1人当たりに換算すると、アメリカについで世界第2位だそうです。ちなみにプラスチックごみの総合量(2014年)は、中国が第1位、第2位はEU諸国、第3位はアメリカで、日本はインドについで第5位でした。研究機関によりデータが異なりますが、おおむね人口に準じているようです。

サーマルリサイクル

産業技術総合研究所安全科学研究部門主任研究員の小野恭子さんによると、ごみをいかに処理するかという問題は、エネルギー有効活用や二酸化炭素の排出の問題と切っても切れない関係にあり、日本の場合焼却して熱回収される「サーマルリサイクル」が中心で熱回収の効率を上げる技術開発もセットで進められてきたなかで優位になっているそうです。たしかにプラスチックは熱量が大きいことから焼却して熱回収し、その熱を有効に使う方が総合的に得られるメリットが大きいし、お金をかけて行ったリサイクルが、かえってエネルギーの使用量や二酸化炭素の排出を増やしていたとすれば、本末転倒ですよね。

 

マイクロプラスチック

海洋に流れ出したマイクロプラスチック( 直径5mm未満のプラスチック粒子または、プラスチック断片)をお魚たちが誤って食べてしまい、そのお魚を食べる人間に影響が出るとか、そもそもの生態系がおかしくなるとか世界中で大問題になっています。日本の場合はごみの回収が比較的うまくいっており、ごみの焼却率が高いため、高く見積もっても1パーセントしか海洋に流出しないそうです。とは言え「1%」でも環境に良くないことはやめましょうということで、不法投棄を無くせばいいのかというと、ことはそれほど単純ではなさそう。

画像は海と日本プロジェクトサイトより
 

ご存じの方も多いと思いますが、フリースなどの合成繊維を洗濯するだけで、マイクロプラスチックが大量に発生することがわかっています。最新の研究によると、海に流れ出てしまったマイクロプラスチックのうち、なんと3割が日常の洗濯物から流出しているという情報もあるらしいです。

具体的に説明すると、家庭の洗濯機で発生したマイクロプラスチックは下水を流れ下水処理施設にたどりつきますが、マイクロプラスチックは極めて小さいため、かなりの割合が下水処理施設をすり抜けてしまい,最終的に川や海に流れこんでしまうのです。日本の場合は下水処理場で99%取り除くことができるらしいですが、豪雨で下水があふれたりすると、回収されずに海に流れ出てしまうことも。このような理由もあって今世界中が一気に合成繊維バッシングに傾いています。もちろん合成繊維業界も黙っているはずがなく、リサイクルポリエステルに加えて、植物由来原料を使ったバイオポリエステルの開発および実用化も進んでいるので、いずれ汚名返上となるでしょうし、そもそも合成繊維の使用をやめて天然繊維や再生繊維だけにすればいいかというと、そう簡単でもないのです。


画像はラブグリーンより https://lovegreen.net/

天然繊維は作ることのできる量が天候に左右され、特に綿は広大な畑や牧場地と大量の水のほか、肥料や農薬が必要です。オーガニック綿は薬品による弊害を改善できますが、収量が少なくなるため、より多くの土地を必要とすることになります。となると動物保護団体のターゲットにされるウールやカシミヤを除けば、肥料や農薬、水をあまり使わない良質の麻や木材パルプから精製される再生繊維のリヨセル(テンセル)がもっともエコな繊維と言えそうですが、今度は私たち人間の懐に優しくないという痛い問題が・・・
ちなみに再生繊維の代表格であるレーヨンは、木材パルプから精製されるため環境にやさしいし価格的にもそこそこなんですが、水にとんでもなく弱い(濡れると強度が落ちるしすごく縮む)ため扱いが難しい素材なんです。

プラスチックは、レジ袋やペットボトル等のわかりやすいものばかりではありません。かなり規制が進んだとはいえ、まだまだ流通している洗顔料や歯磨き粉のスクラブ、化粧品に入っているラメもマイクロビーズというプラスチックです。全てのプラスチックや合成繊維を無くすことは現実的ではないでしょうから、個人的な意見としては「どう付き合うか」を考えるべきだと思います。繊維に限って言えば、ヒートテックのような発熱機能やドライフィットのような吸湿速乾機能を手放すのももったいないし、カーテンなら遮光や防炎、ウォッシャブル機能もポリエステルの専売特許。地球環境と生活環境のバランスを整理するなら、リサイクル糸とか合成繊維と天然繊維のハイブリッドを選ぶとか、下記のようなアイテムを使ってみるのも充分効果があるのでは。

賢人アイテム

ドイツの非営利団体が開発した合成繊維の衣類を入れる洗濯バッグ「グッピーフレンド・ウォッシング・バッグ」:除去率54
https://www.patagonia.jp/product/guppyfriends-washing-bag/GP001.html
 
マイクロプラスティックを生むマイクロファイバーを絡めとる「コーラボール」:除去率31
https://solov.shop/products/cora-ball
 
洗濯機の排水管に取り付け、排水に含まれる微小な繊維をろ過する「XFiltra」:除去率78
https://www.xerostech.com/technologies#xfiltra
 
プラなし生活 https://lessplasticlife.com/ より引用




電気自動車は走行時に二酸化炭素は排出しませんが、製造時にはエンジン車の倍以上排出するといったデータもあるように、繊維にも完全無欠はありません。過激な意見もありますが「多少高価でも気に入ったものを長く大切に使う」という、いわば普通のことをしっかり実践していくことが重要なのでは、と感じています。

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