北国にお住まいの方などには、その光景を見ると少し気が滅入ると感じる方もいらっしゃるかもしれません。一方で、寒さが苦手でも、目にすると子どものころのように心が弾む方もいるのではないでしょうか。何についての話か、もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんね。今週の生地第15回目は、「雪」をテーマにしたファブリック「ルミ FA1823」をご紹介いたします。
やさしいタッチで描いた雪の情景。モチーフ部分を残し残りのベース部分を溶かして模様を表現するオパール加工と呼ばれる染色技術でふわりと雪が舞い降る様子を描きだし、丸い輪郭に沿うように糸がふわふわと立ち上がる様は、布にぼたん雪がのっているような立体感を感じます。ふぞろいなドットのかたちや並び具合にも、雪らしい風情や手仕事を思わせるぬくもりが感じられます。
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ルミ FA1823」を手掛けたフィンランド在住のテキスタイルデザイナー 吉澤葵さんは、アアルト大学でテキスタイルデザインを学び、2015年に卒業。現在は、ヘルシンキでフリーランスのテキスタイル・サーフェスデザイナーとして活躍しています。スウェーデンのファブリックメーカー、BORAS COTTON(ボラスコットン)やフィンランドのテキスタイルメーカーLAPUAN KANKURIT(ラプアン・カンクリ)など、
インテリアやファッションの分野でデザイン提供を行う傍ら、個人で作家活動、バンド活動にも積極的に取り組んでおり、その幅広い才能が感じられます。そんな吉澤さんの創作の源は、散歩中に目にする自生の植物の葉や花、つぼみ、さらには海や空といった数々の自然。また、それらが生み出す豊かな時間が、吉澤さんのインスピレーションの源泉となっているそう。
画像左:BORAS COTTON / MIKA、画像右:フィンランドの伝統工芸、リュイユ・タペストリーからインスピレーションを受けて生まれたAINO(※どちらも、現在FIQでのお取り扱いはございません)
「ルミ」はフィンランド語で「雪」のこと。雪が身近なフィンランドでは、様々な「雪」の呼び名があるそうです。その数
実に約50種類!例えば「Loska(ロスカ)」はシャーベット状の溶けかけた雪、「Puuteri(プッテリ)」はパウダースノー、「Pyry(ピュリュ)」はホワイトアウトのように前が見えない降り方を表し、「Pakkaslumi(パッカスルミ)」は積もって硬くなった雪を意味します。生地名となった「Lumi(ルミ)」は、その中でも最も一般的な表現です。
FIQでは英語と同じくらいフィンランドやスウェーデンといった北欧諸国の言葉に触れる機会が多く、気になった単語の意味や、よく見かける言い回しを調べることがあります。そのような過程で、デザインされた生地への理解がぐんと深まることも。
どの国の言葉にも、その国の歴史や文化、人々の価値観や暮らしが映し出されているように思いますが、北欧諸国の言葉を調べる中で気付くのは、自然と深く結びついた表現が多いことです。先述したフィンランド語の「雪」という言葉一つにも、さまざまな呼び名があります。一方、私たちが住む日本にも「粉雪」「牡丹雪」「吹雪」「風花」といった多様な「雪」の表現があり、そうした共通点に親しみを覚えます。
吉澤さんのデザインからは、彼女自身の眼差しを通して、その場所がもつ空気感や情景が伝わってくるような奥深さが感じられます。北欧の自然や日常の美しさを切り取ったかのようなその表現の一つひとつが、見る人に温かさや優しさを届けているようです。