2025年最初の「今週の生地」は、今年の干支でもある「ヘビ」がモチーフのファブリック「loop」をご紹介いたします。
鈴木マサル氏によるプライベートレーベル「OTTAIPNU(オッタイピイヌ)」よりリリースされている生地「loop」。おおらかでいて、色の重なり(重版)を堪能できるプリントファブリックです。しかし特筆するべきところはそれだけではありません。こちらの生地、何とリピート(生地の柄の繰り返しの1サイズ)が173cm!大人ひとり分くらいの大きさです。FIQで取り扱っているインテリアファブリックの模様のリピートは、デザインにもよりますが平均で1リピート60cm程。皆さんご存知のmarimekko(マリメッコ)のUNIKKOでさえ103cmです。173cmというのがどれほど大きなリピートなのか、なんとなく想像がつくでしょうか。
ヘビさんと重ねてプリントされている青いモチーフは、所々食べられているリンゴ。リンゴとヘビといえば、エデンの園に住むアダムとイブが、ヘビにそそのかされ、(一般的にリンゴとして描かれることが多い)「善悪の知識の木」の実を食べてしまいエデンの園を追放される。という聖書のエピソードが有名です。しかし、このファブリックに描かれている、どこかのんびりとした表情のヘビさんを見ると、とても人を騙そうとしているようには見えません。むしろ、お腹を空かせたヘビさんが、美味しそうなリンゴを一口かじってはその美味しさに「舌」ではなくトグロを巻くようにグルグル、また一口かじってはグルグルしているようも見えます。
鈴木さんのファンにはすでにお馴染みかもしれませんが、「loop」はフィンランド・ヘルシンキ市内から北へ約2時間、タンペレ手前に位置する小さな町のプリント工場で生産されています。OTTAIPNUの他の生地は日本国内でプリントされている中、「loop」(と、今回はご紹介していない「tatan」という生地)はフィンランド製なのです。
※「loop」と同時期にフィンランドで生産された「tatan」の生地がプリントされる様子。
北欧でプリントファブリックを目にした際の高揚感や、「自分の生地には何かが足りないのでは」という鈴木さんの当時の思い。そんな中、「フィンランドで生地を作れば何かが見えてくるのではないか?」という考えや、純粋に「ここで生地を作ってみたい!」という気持ちが、「loop」を世に生み出すきっかけとなったそうです。自身の心の底から湧き上がるシンプルで力強い感情を尊重し、それを行動に移した鈴木さんってかっこいいですよね。
そんな鈴木さんの思いが行動となり完成した生地は、市場での「売りやすさ」や製品に仕立てる際の「柄(模様)の取り方・出方」といった制約から解放され、純粋に「鈴木さんが作りたい生地」として形になりました。FIQで「loop」を取り扱いたいとお話しさせてもらった際、「売れないよ……!?」と鈴木さんご本人が驚きながらおっしゃっていたのを、今でも印象深く覚えています(とはいえ、実際には何度か販売しました)。
この生地を見て「何に使うの?」と問いかけるのは、もしかしたら少し野暮なことかもしれません。「loop」はその存在だけで、作り手の思いやデザインの自由さを感じさせてくれる特別なプリントテキスタイルだからです。