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【コラム】ロンドン日記#9・ウィリアムモリスギャラリー

2020/09/25

【コラム】ロンドン日記#9・ウィリアムモリスギャラリー


8月の青空が広がる日、久しぶりに美術館へ足を運びました。ロンドン北東部・ウォルサムストウのロイド・パーク内にある、ウィリアムモリスギャラリーです。


このウィリアム・モリスに捧げるギャラリーの設立は1914年に計画され、1950年にクレメント・アトリー首相によって開設されました。その後、ギャラリーは2011年から2012年にかけて大規模な再開発を行い、歴史的な建物は全面的に改装され、1階と2階には新たなコレクションの展示が行われました。より多くの人々にウィリアム・モリスの生涯や作品を知らせることを目的とした再開発となったそうです。ウィリアムモリスギャラリーのコレクションは10,000点を超えます。それらのコレクションには、テキスタイル、壁紙、家具、ステンドグラス、陶器、金属細工、書籍などが含まれています。
 

この建物は、ウィリアム・モリスが14歳から22歳まで過ごした邸宅です。1847年、当時13歳の時にモリスは父親を亡くしました。残された8人の兄弟・姉妹、母親とともに、今日のウィリアムモリスギャラリーであるこの邸宅に引っ越してきたのです。モリスたちは、夏には庭の堀をボートや釣りに、そして冬にはアイススケートに使っていたそうです。そしてモリスは、この邸宅の大階段の高い窓に座って初期の詩を書いたと言われています。
 


当時の邸宅がこちらの左側の写真です。再開発がされているものの、現在のウィリアムモリスギャラリーは当時の面影をそのまま残している様子がうかがえます。
 
 
ウィリアム・モリスはデザイナーであり、職人であり、詩人であり、社会主義者でもありました。彼は1834年にウォルサムストウで裕福な家庭の長男として生まれ、中流階級の教育を受けていましたが、彼は聖職者ではなく芸術家になることを選択し、家族に衝撃を与えたそうです。そして1859年にジェイン・バーデンと結婚し、新居の「レッド・ハウス」を友人らと作り上げました。その後、1961年には友人たちと一緒にインテリアデザインのビジネスを立ち上げ、大成功を収めることになります。これが後のモリス商会です。そしてモリスはヴィクトリア朝時代の変革を目指していました。彼は、美は人間の基本的な欲求であると考え、日常生活に芸術を取り入れたいと考えるのです。彼はヴィクトリア朝の工業化の影響である、過密な町や都市、スラム住宅、流行性の病気、環境汚染を嫌い、社会的平等と職人技への回帰のために戦いました。モリスの思想は、若手の建築家やデザイナーらからなる「アーツ・アンド・クラフツ運動」へと継承されていきます。

ギャラリーの中を進むと様々なモリスの活動や作品を見ることが出来るだけでなく、その生涯や思想をそっと覗き見ることができるような感覚になります。

こちではヴィクトリア朝時代の大量生産されたデザインと、モリスのデザインが並べて展示されています。

 


こちらはモリスがデザインしたテキスタイルの数々。天井に吊るされた大きなプリントテキスタイルは、単色使いでありながらその繊細さに目を奪われます。プリント、織物、刺繍、タペストリーと様々なテキスタイルを世に残しました。

 

こちらはモリスと妻のジェイン・バーデンが住んでいたレッドハウスの写真と設計図です。

1859年、新婚のウィリアム・モリスは、友人である若い建築家フィリップ・ウェッブにこのレッドハウスの建設を依頼します。その後友人らの力を借りながら自らのデザインでインテリアを装飾しました。そのレッドハウスは、大胆で宝石のような色調で飾られ、壁には刺繍や絵が飾られています。


 
 


その他にも、実際に使用された木版やスケッチ。ステンドグラスやセラミック、書籍など・・・。モリスが多岐にわたり様々なデザインに力を注いでいたことが見受けられます。

彼が1896年に亡くなったとき、彼の主治医は「原因はウィリアム・モリス自身であり、10人分の男性の仕事よりも多くの仕事をしたからだ」と言っていたそうです。

 


1階と2階をつなぐ中央の階段にも、モリスの絨毯が敷かれています。モリスやその家族が、この邸宅でどんな生活を送っていたんだろう・・・・そんな事を考えながらゆったりとした時間を過ごすことが出来ました。


ウィリアムモリスギャラリーは
モリスの生涯を通した信念を感じることが出来る場所です。手仕事の美しさや大量生産されていく工業製品に対する危機感を唱えていたモリス。その思想は今の私たちにも深く影響をもたらしています。自らの技術や才能で手仕事の美しさを表現することで、とても説得力があり心に伝わるものがあると感じます。しかしモリスはそういった素晴らしいものが高額であり、人々の手に届かないという現実にも直面していたようです。現代の私たちの生活でも、その葛藤のようなものは残っているように思えます。1点ものや手の込んだ素晴らしいものは高額で家にそろえるのは中々難しい。そして似たようなものを低価格で購入し、それらが溢れかえっていく。モリスの思想は私にとっても理想ではあるけれど、現実には難しい部分もあります。ただ本当に自分がいいと思うものを家に迎え、長く大切に使う事。そんな小さなことですが、彼の考えに少し影響を受けました。そして、古い建物を大切に使い、家の中に対しての関心が高く、好きなものを集め、大切に使うヨーロッパの人々の文化とモリスの思想には通ずるものを感じます。


 


ロンドンにきて、二回目の夏を過ごしました。夏の暑さを感じる日は数えるほどしかないイギリスでは太陽が出て暑い日には、いたるところで日光浴を楽しむ人々であふれていました。そして、今はもうすっかり冬の空で、外はとても寒く、上着が必要な気候に変わりました。
 
コロナウィルスにより三月末からロックダウンをしていたロンドンですが、6月から少しずつ緩和され、レストランでの外食や公共交通機関の利用が許され、様々な規制の中ではありますが日常生活が取り戻されています。しかしこの数週間、感染者はまた拡大し、第2波のための規制が始まり、街の様子も少し変わってきています。週末はパブで沢山の友人たちとビールを飲んだり、ミュージカルを見たり、サッカー観戦をしたり、イギリスでそんな光景を見られるのはまだ先になりそうですが、外出が自由になり笑顔で挨拶を交わせるだけでも幸せな気持ちになることに気が付くことができた貴重なロンドンでの夏となりました。


参照  ウィリアムモリスギャラリー公式サイト    https://wmgallery.org.uk/
    ヴィクトリア&アルバート博物館公式サイト     https://www.vam.ac.uk/
 



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